埼玉工業大学の後付け自動運転AIシステムがまた進化、既存の路線バス車両に後付けする“自動化”で京急電鉄エリアを想定以上になめらかオート走行_学生は「自分がかかわった部分が実際に正しく動作して感動」

全国の鉄道会社系路線バス事業者が注目する自動化システムが、埼玉工業大学が開発する“生きた教材”―――後付け自動運転AIシステム。

埼玉県深谷市にキャンパスをおき、人間社会学部と工学部の2学部で文系・理系の枠を超えた多彩な学び・研究を続けている埼玉工業大学は、独自の自動運転AIシステムをいち早く“生きた教材”として採り入れ、大学の教材でありながら、全国各地の自動運転実証実験でテスト走行を重ね、いまでは全国の路線バス事業者から共同事業のオファーがくるまでに進化してきた。

埼玉工業大学が開発する自動運転AIシステムは、既存の路線バス車両などに後付け(あとづけ)で改造して自動化を実現できる点に独自性がある。

画像のように、もともと路線バスで活躍していた日野レインボーIIを改造し、埼玉工業大学の自動運転AIシステムを組み入れることで、できる限り運転手のハンドル・アクセルの介入がない運転を実現させる。

しかも、停留所への正着も数ミリ誤差の枠で高精度にこなして。

直近では京急グループ川崎鶴見臨港バス路線でテスト走行

10月下旬には、京浜急行電鉄(京急電鉄)グループの川崎鶴見臨港バス 塩浜営業所に、埼玉工業大学の後付け自動運転AIシステムを搭載した日野レインボーII自動運転バスが採用され、川崎鶴見臨港バスが代表幹事を務める「2023KAWASAKI新モビリティサービス実証実験」で、新たなアップデートをみせた。

この川崎鶴見臨港バス路線テスト走行では、川崎鶴見臨港バスが「実証全体管理、コーディネート運行管理、保安ドライバー」を、アイサンテクノロジーが「高精度3次元地図作成、運行支援」、A-Drive が「自動運転サービスの社会実装支援」、東海理化が「遠隔監視システム」、埼玉工業大学が「車両技術提供」、損害保険ジャパンが「自動運転リスクアセスメント提供」、SOMPOリスクマネジメントが「自動運転リスクアセスメントの提供」を担当。

テスト走行ルートは、川崎鶴見臨港バスが80年以上運行してきた川03系統のルートの一部で、「片側3車線の産業道路の流れにのって走行」「路上駐車が多発するエリアを回避しながら走る」「大型トラックが連なる車線を走る」「工場勤務者などの自転車利用者が多いエリアを行く」「直上に首都高がありGNSS(衛星測位システム)をとらえられるか」といった難しい課題をどうクリアするかなどにも注目が集まった。

商用車過密ルート、首都高の橋脚をどうクリアするか

川崎鶴見臨港バス路線テスト走行の初日には、川崎市 福田紀彦 市長をはじめ、アイサンテクノロジー、A-Drive、東海理化、損保ジャパン、SOMPOリスクマネジメント、埼玉工業大学などのトップたちが集結。さっそく乗り込み、後付け自動運転AIシステムの「最新の挙動」を確認した。

今回、注目を集めたのは、首都高速道路 横羽線が並走する産業道路(東京都道・神奈川県道6号東京大師横浜線)をどう走るか、だ―――。

産業道路は、大型トラックが複数台連なる商業車過密ルートで、しかも走行ルートの頭上には首都高速の橋脚が立ちはだかる。

衛生GNSS や LiDAR などのさまざまな測位情報を刻々と集めながらプログラムされたルートを走る自動運転バスのなかで、この頭上の首都高速がまずハードル。首都高の橋脚が GNSS のデータを遮るという“壁”がある。

―――埼玉工業大学 工学部 情報システム学科 渡部大志 教授(同大学 自動運転技術開発センター センター長)は、こうした厳しい走行環境のなかで、実証実験テスト走行を終えて、こう話していた。

「GNSS が受信できなくても位置推定がブレることなく運行」

「今回の川崎鶴見臨港バス路線エリアテスト走行は、西新宿の京王バス路線運行に引き続き、GNSS が受信できない環境でした。

そこで前回の西新宿の経験を活かし、GNSS が受信できない今回の川崎鶴見臨港バス路線エリアで、実質わずか2日半で調律が完了できたことは、ひとつの進化です。

また、この川崎鶴見臨港バス路線テスト走行では、GNSS が受信できないことから LiDAR による位置推定が必要になりました。

が、産業道路を通る大型車両に LiDAR が遮へいされ、位置がずれることが想定される難しい環境であることが予想されました。

そしてテスト走行してみて、位置推定がブレることなく運行できるよう調整ができたことも評価したいです」(埼工大 渡部大志 教授)

「すぐに即応してオートで走れる自動運転バスへ」

また、埼玉工業大学 工学部 情報システム学科 渡部大志 教授(同大学 自動運転技術開発センター センター長)は、今後も予定を控えている全国各地の路線バス事業者との実証実験や路線運行に向けて、こう期待を込めた。

「自動で初めて走るルートも、すぐに即応してオートで走れる自動運転バスへと進化させていきたいですね。

いずれはどんな車両でも後付けで自動運転化する自動運転AIシステムを実現できるよう、埼玉工業大学は開発をすすめていきます。

今後も、すべての人たちに“移動の自由”が実現できるよう、志を同じくするメンバーたちと協力して努力していきたいと思います」(埼工大 渡部大志 教授)

――― 深刻なドライバー不足などに直面している路線バス業界。埼玉工業大学は、こうした課題に後付けて、「AI/ITの自動運転技術への応用を学べるリアルな教材」の自動運転AIシステムで、どうソリューションを提供できるか。

開発を担う埼玉工業大学の学生たちは、「自分のつくったものが実際の走行に関与してることに感動です」「自分がかかわった部分が正しく動作するかドキドキしましたが、実際に正しく動作していて感動しました」とピュアな気持ちを伝えていた。