テクノロジーの進展とともに、人間の身体感覚はどのように変化してきたか?
スマホの登場から生まれた指先の感覚、ゲームやVRのなかにいる自分、また今後はAIや自動運転などが普及し、機械と身体との境界はますます曖昧なものになっていく―――。
そんないま、アートとテクノロジーを駆使し、現代の身体のありようを鋭く問いかける作品群を集結させた、まったく新しい“入場無料 展覧会”が東京・有楽町で 8月30日~11月19日に開催されている。
題して「わたしのからだは心になる?」展
SusHi Tech Square 1F(旧 東京スポーツスクエア)の第1期展覧会である「わたしのからだは心になる?」展では、8組のクリエイターによる作品を「機械と身体」「バーチャルな身体」「社会のなかの身体」「環境と身体」の4つのゾーン(「わたしのからだは心になる?」展 会場マップ)に分けて展示。
テクノロジーの進展とともに、身体感覚がどのように変化してきたかを、遊びながら、体験しながらたどっていけるという空間。
また、各作品に「わたしのからだは○○になる」といったコピーをつけ、一人ひとりの「身体」のなかに秘める多様なイメージを教えてくれる。
ってことでここで、その4つのゾーンの遊ぶ・楽しむヒントを、ここでチェックしていこう。
幽体離脱やロボットが浮き出る!? 「機械と身体」
「わたしのからだは空気になる」
いまやわたしたちの身体にとって、機械はなくてはならない存在。
毎日触れているスマホや PC からも、身体感覚は大きな影響を受けている。
ここ「機械と身体」では、ある仕組みを使って、まるで幽体離脱をしたように自分の身体を別の視点から眺めたり、自分の身体からやわらかいロボットが浮き出てきたりなど、機械と身体が結ぶ新たな可能性に迫れる。
生身の身体はもう不要!? 「バーチャルな身体」
「わたしのからだはケモノになる」
VR が普及してきたいま、ユーザーのなかでは新たな身体感覚が芽生え始めている。
なかには、VR 世界に没頭するあまり、生身の自分の身体を「不要だ」と感じる現象も起きつつある。
―――そんな状況に対して、抵抗を試みるパフォーマンス型作品から、VR 世界のアバターを自在に取り替え、人間を超えた皮膚感覚を得ようとする作品が登場。いろいろ楽しみながら考える場に。
身体の代行サービス!? 「社会のなかの身体」
「わたしのからだは誰かにる」
「美しさ」の基準が時代によって変わるように、わたしたちの身体の価値基準は、その社会のなかでいかようにも変化する。
ここ「社会のなかの身体」では、過去・現在・未来から、美の変遷をたどる作品をはじめ、自分自身の身体の存在自体を一種の「代行サービス」として他者に提供する近未来 SF 的な作品が並ぶ。
遠隔交流はできる!? 「環境と身体」
「わたしのからだは生態系になる」
人間の身体もまた、虫や植物といったさまざまな異種と関係を結ぶ、生態系の一部。
都市空間において、生命がどのようなネットワークを構築しているかを可視化し、そこにテクノロジーを介在させることで、「遠隔での交流はできるか」「人間はいかに異種と関わることができるか」をテーマに、展示を通した実験が繰り広げられる。
会場中央のプレイグラウンドで自由に発言!
「わたしのからだは心になる?」展(東京・有楽町 SusHi Tech Square 8/30~11/19 開催)4ゾーンの中央には、イベントスペースを兼ねた自由空間「プレイグラウンド」が。
このプレイグラウンドには、作品鑑賞の解釈や理解を助ける「アートコミュニケーター」が常駐。
プレイグラウンドを起点に自由に行き来しながら作品を鑑賞し、提示された問いについて考えたり、作品に対する意見交換もできる。
鑑賞後は、プレイグラウンドにある「ボイスウォール」と呼ばれる壁に、展示を通じて考えたことや感想を貼っていける!
このプレイグラウンドで、都市の生活や身体の未来について、鑑賞するだけでなく「考え」「言語化する」ことで、来場者一人ひとりの声が可視化され、さまざまな未来の「身体」のイメージが湧き出てくる。
プレイグラウンドで学び・遊び! 仕事もOK
鑑賞中のちょっとした休憩や、作品に関する意見交換、仕事や勉強もできるプレイグラウンド。
鑑賞者が自由に使えるこの空間。多彩なイベントも開催する予定だから、要チェック。
解釈を楽しむ アートコミュニケーター
アートコミュニケーターによる、予約不要の鑑賞ツアーを毎日実施。「アートは難しい」という人にも、展示作品について分かりやすく解説。オレンジ色のユニフォームが目印。
◆ファミリー向け鑑賞ツアー 土休日:14:00―14:30
◆ビジネスパーソン向け鑑賞ツアー 平日:19:00―19:30
未来を言葉に ボイスウォール
未来に対するイメージを、鑑賞者一人ひとりが書いて貼る壁面。「わたしの未来はどうなるのか?」を考え、発言し、みんなでつくっていく場に。
―――ここからは、各アーティストの作品と、そこに込めた想いについて、チェックしていこう↓↓↓
わたしのからだは〈モノ〉になる
小鷹研究室 as 注文の多いからだの錯覚の研究室
小鷹研理《ボディジェクト指向#03 <変身>》
宇佐美日苗・小鷹研理《あなたは今、しています。A3/ A6》
もしあなたが幽体離脱できるとしたら? 自分の「体」と「心」が分離して、自分の体が何やら別の物体のように見えてくる。
そんな不思議な体験をもたらすのが、〈小鷹研究室 as 注文の多いからだの錯覚の研究室〉によるインスタレーションです。
これらは「観察対象としての身体」にアクセスするための体験装置。
ここでは体に関するさまざまな「注文」に応じていくと、鏡とディスプレイの仕掛けによって自分の体が奇妙なカタチになって映し出されたり、絵に描かれた図とまったく同じ行為をしている自分に気付いたりします。
そのときあなたの体は、自分であって自分でないような、周りにいくつもあるモノの一部になったような感覚に包まれているかもしれません。
わたしのからだは〈空気〉になる
筧康明+赤塚大典+吉川義盛
Air on Air
自分の体内から吐き出された息が、遠くの土地で空気となって空に舞い上がる。
《Air on Air》は、そんな不思議な情景を生み出す参加型インスタレーション・シリーズです。
マイクに向かって息を吹きかけると、その情報は遠隔地でシャボン玉となって空に放出されます。
今回の新バージョン《Air on Air 》では、ひとつは山へ、海へ、または都市のどこかへと、自分の息だったシャボン玉が
舞う様子を、スクリーンにてリアルタイムに眺めることができます。
コロナ禍で生まれたこの作品は、移動が制限された最中でも、画面の向こうに広がる世界と自分の身体をつなぎ、空気や風といった見えないものへの存在に思いを馳せる機会を与えてくれるでしょう。
わたしのからだに〈あの子〉がいる
ソンヨンア+鳴海拓志+新山龍馬+勢井彩華
Puff me up!
遠くにいる誰かが、あなたの体から生えてくる?
家族や友人から飼い猫まで、遠隔にいる存在の動作や会話を伝えてくれる《Puff me up!》は、体のどこかに装着すると、必要な時だけ空気で
ふくらんで現れる「やわらかい分身ロボット」です。
服やアクセサリーと近い感覚でロボットを身につけ、状況に応じてフワッと他者が現れ動き出す。
遠く離れた場所にいる家族や友人とも、声をかければすぐに会話ができる。
布でできたやわらかな感触のウェアラブル分身ロボットは、いつしかあなたの体の一部になっていくかもしれません。
もしそんな未来がやってくるとしたら、あなたならどんなロボットと共にいたいと思いますか?
わたしのからだは〈不要〉になる
ノガミカツキ
仮想支配
近年普及したソーシャルVRの世界では、美少女から宇宙人まで、自身のアバターを自由に変えて楽しむことができます。
そうしてVRの身体に没入するうち、自分が若くなったと感じるなど、バーチャルの身体のほうが自分に近いと感じる現象も一部で起きています。
さらにVR空間では自在に操作できるはずの体が、実際には壁にぶつかったり腕が曲がらなかったりと物理的な制約を受けるため、次第に生身の体をジャマだと感じることもあるようです。
ノガミカツキ本人が登場する《仮想支配》は、この身体感覚が侵食される状況に抵抗を試みるパフォーマンス型作品です。
物理と仮想の間で生じる奇妙なねじれを利用しながら、自身のVRの身体をなんとか支配しようと挑む行為を通して、新たな身体アイデンティティの行方を問いかけます。
わたしのからだは〈ケモノ〉になる
Synflux
WORTH Customizable Collection: KEMONO
フィジカルとバーチャルが連動する世界がやってきたとき、あなたはどんな格好をしていると思いますか?
現在でもスーツや制服を着ている時と部屋着とで異なるように、わたしたちのアイデンティティは体にまとう衣服によっても多様に変化します。
Synfluxが開発する仮想の未来空間「WORTH」は、ユーザーが自ら改造できる「アバタースキン」を提供し、デジタル時代の自己とファッションの関係を問いかけます。
仮想空間では、職業や立場に規定されることもなく、ましてや人間の格好をする必要もありません。
WORTHのキャラクター「ケモノ」は、未来の自然環境に適応するべくキノコや植物柄のスキンを身につけ、周囲の森との接続を試みます。
そこでは、仮想世界ならではの新たな生命の躍動が感じられるかもしれません。
わたしのからだは〈誰か〉になる
花形槙
Uber Existence
《Uber Existence》は、自分の体が「そこにいること」自体を提供する「存在代行」サービスです。
存在代行者(アクター)に登録すると、アプリを通じてサービスの利用者(ユーザー)からさまざまな指示がやってきます。
たとえば「お祭りに行きたい」という指示がユーザーから入れば、アクターは帽子にカメラを付けてお祭りを訪れます。
ユーザーはそのリアルタイムの映像を観ることで、まるで自分がその場に存在しているような感覚を得ることができます。
あなたがアクターになるとしたら、一体時給いくらで、どこまでの範囲の代行なら提供できるでしょうか?
果たして、そのときあなたの体は誰のものになっているのでしょうか?
わたしのからだは〈理想〉になる
神楽岡久美
美的身体のメタモルフォーゼ
あなたにとって「美しい身体」とはどんなものでしょうか?
時代や文化的背景によって、美の価値はさまざまな変遷を遂げてきました。
たとえば小さい足が美人の条件とされた中国の纏足(てんそく)や西洋の貴族社会で生まれたコルセットなど、体を拘束することで理想の身体に近付こうとする行為は、いまなお形を変えて続いています。
さらに現代の日本では、プリクラからアプリの顔加工まで「盛り」カルチャーが特異な進化を遂げています。
神楽岡久美は、そうした美の変遷の歴史を参照しながら、さらに1000年先の「未来の美」を提案します。
地球温暖化が進んだ厳しい環境下では、どんな身体が美とされるのでしょうか。
わたしのからだは〈生態系〉になる
Alternative Machine
Enabling Relations
生き物の体は、常にさまざまな種と関係し合っています。
食べる・食べられるの関係はもちろん、ミツバチが花粉を運んだり、最近の研究では土中の菌が樹木に与える影響とそのネットワークなどにも注目が集まっています。
《Enabling Relations》は、人間がインターネットによって遠隔での交流を実現したように、植物や昆虫同士でも、現代の技術によって物理世界ではありえなかった関係軸を生み出せるかを探求する実験プロジェクトです。
ここではまず、東京都内の街路樹と、土・水・風の流れなどとの関係性を調べます。
次に、別々の場所で生息する植物同士がネットワークをつくる実験を行います。
さらには、人間の活動がそれらの生態系と関わり合うことができるのか、新たな接続のあり方を模索していきます。
特別展示「バグのとなりで」も注目
特別展示
早稲田大学基幹理工学部表現工学科 橋田朋子研究室
「バグのとなりで」をテーマに、「バグ」と呼ばれるような現象から着想を得た 4 作品を展示します。
通常「バグ」はデジタル上の誤りとして扱われますが、中には新たな発見や価値をもたらすものもあります。
自然物から人まで、多様な私たちにまつわるバグを、直すのではなく転用や拡張することで、からだの認識や可能性を揺さぶります。
心身のフレイル(虚弱状態)を予防する最前ヒントも
関連展示
東京都健康長寿医療センター
心身のフレイル(虚弱状態)には身体・認知・社会・精神などさまざまな要因が考えられます。
複雑化する健康状態の把握と病気の予兆を察知するため、健康長寿医療センターではスマートウォッチなどデジタル機器を用いて検証や研究を行っています。
最新の技術では、どのように測定・可視化されているのでしょうか。
フレイル予防の最前線を紹介します。
歩行支援ロボテックウェア「curara」も
関連展示
東京都立産業技術研究センター
信州大学発のベンチャー企業・アシストモーション社と協働で開発した歩行支援ロボテックウェア「curara」。
誰もが自分の足で気軽に歩ける社会を実現するために、衣服のように「着る」ことのできるロボットを開発しました。
展示会場では「curara」のサービスと、より多くの人が日常的に使える社会を目指した未来像を紹介。実機を体験できるイベントもあります。
―――このほか、「わたしのからだは心になる?」展(東京・有楽町 SusHi Tech Square 8/30~11/19 開催)の詳細や、イベント情報などについては、公式サイトをチェックして、行ってみて↓↓↓
https://sushitech-real.metro.tokyo.lg.jp/first/
https://e-ve.event-form.jp/pages/1801/cM7YM7oAR8
最後は会場の「SusHi Tech Square」1階について
ちなみに、この「わたしのからだは心になる?」展(東京・有楽町 SusHi Tech Square 8/30~11/19 開催)の会場である「SusHi Tech Square」は、建物を一体的に活用し、“発信”と“実践”を通じ、SusHi Tech Tokyo を推進する取り組みの一環としてできた空間。
「SusHi Tech Square」1階 space では、新しいアイデアを生む場としてメディアアートの展示や、東京 2020 大会のスポーツレガシー、都市の豊かな自然や生き物といった東京の多様な文化や魅力を、デジタル・テクノロジーによって多くの人が楽しく体験できる場に。
メディアアートの展示は、身近で分かりやすい「身体」をテーマとした「わたしのからだは心になる?」展から始まり、第2期は12月ごろを予定しているというから、今後の動きにも注目を。