「まずはサンゴがどういう生き物で、地球上からなくなってしまう恐れがあるという現状を知ってもらい、サンゴを守るためのアクションを起こす人が増えるといいなと思います」
―――そう語るのは、幼稚部・小学部・中学部・高等部・大学・大学院が広大なワンキャンパスに集う玉川学園のサンゴ研究部 顧問 市川信先生。
玉川学園 サンゴ研究部は、「海洋都市横浜 うみ博2025」（7/12・13）にブースを出展し、初めて来場者に向けてワークショップを開催した。
海からのSOS！白化サンゴでつくるオリジナルキーホルダー教室
玉川学園 サンゴ研究部は、「海からのSOS！白化サンゴでつくるオリジナルキーホルダー教室」と題したワークショップを展開。
教えているのは、サンゴ研究部に所属する7・8年生（中学1・2年生）の生徒たち。
真剣なまなざしでキーホルダーづくりに挑戦する子どもたちへ、優しくていねいにレクチャーしていた。
フィールドワーク等を通してサンゴの研究を深める
全国的に見ても珍しい、玉川学園K-12（初等・中等教育）のサンゴ研究部のおもな活動は、サンゴの飼育や観察、フィールドワークなどを通してサンゴを研究し、保全活動や研究成果を発表している。
玉川学園は、伊江漁業協同組合とともに、沖縄県からサンゴの特別採捕許可を取得し、伊江島の海で採捕したサンゴの株を玉川学園に持ち帰って株分けをして成長・増殖させ、ふたたび伊江島に戻す、というサイクルでサンゴ保全活動を2021年から実施している。
サンゴを育てる水槽の水質管理などは、部員たちが協力しながら行っている。
「生徒たちの海への接点を多くして、実際の海から感じたものを伝えられる人になってほしいという思いから、フィールドワークは年間を通して何度も実施しています」（市川先生）
サンゴ研究部に所属しているのはK-12の6年生から12年生（小学6年生から、高校3年生）。
サンゴ研究部では、沖縄のほかに、神奈川県の葉山、静岡県の沼津の海などに赴いてサンゴの研究を深めている。
また、海や海の生き物、生き物全般が好きというきっかけで入部する生徒が多く、日々の活動も熱心に取り組んでいるのも特徴的だ。
サンゴを取り巻く現状の理解や環境問題を考える
今回のワークショップで使用している白化サンゴの「白化」は、サンゴと共生している褐虫藻（かっちゅうそう）という単細胞の藻類が抜け、骨格が透けて見えてサンゴが真っ白になる現象を活用。
海水温の上昇など様々な要因で褐虫藻がダメージを受けることで白化が起こり、進行するとサンゴは栄養を摂れなくなり、死滅してしまう。
今回のワークショップでは、小さくカットした白化サンゴを使ってキーホルダーづくりを楽しみながら、サンゴを取り巻く現状の理解や環境問題を考えるきっかけにしてほしいという想いを込めている。
世界にひとつだけのサンゴキーホルダーづくりを体感
最初にサンゴ研究部の部員がスライドを使って、部の活動紹介や白化現象について、そしてサンゴの置かれている環境の現状についてなど、参加者へていねいに説明すると、親子参加者たちは生徒の話に熱心に聞き入る。
説明が終わると、キーホルダーづくり体験へ。
白化サンゴのほかに、海岸で採取したきれいな小石や小さな貝殻、星の砂などを型の中に並べていく。
真剣な表情の子どもたちに、とき生徒がやさしく声をかけてサポート。並べ終わったらレジンを流し込み、UVライトを当てて硬化させる。
そして、チェーンを取り付ければ、世界にひとつだけのオリジナルキーホルダーが、完成。
初のワークショップ、あっという間に予約枠いっぱいに
研究発表などの機会が多いなか、このようなイベントでワークショップを出展するのは、サンゴ研究部にとって初めて。
当日は、受付開始から30分ほどですべての予約枠が埋まってしまったというから、その注目度もわかる。
「貴重な経験、いろんな発見がある」
朝から子どもたちと向き合ったサンゴ研究部中学部 杉本樹真部長（玉川学園8年生：中学部2年生）はこんな実感を。
「今日のワークショップは緊張せずにつくり方を教えることができました。
参加者のお母さんが、お子さんに『優しく教えてもらえてよかったね』と話しているのを聞いて、嬉しかったです」
杉本部長は、幼稚園のころから昆虫などの生物が好きで、玉川学園で「海の生き物も楽しそう」と思い、サンゴ研究部に入部。
「水槽の水質検査や海水の塩分濃度調整などを毎日やらなければいけないのはたいへん。サンゴに触れる機会はなかなかないので、貴重な経験だなと思います。
褐虫藻とサンゴの関係性もおもしろいし、たまにサンゴといっしょに小さなカニなど他の生き物がついてくることがあって、いろんな発見があります」
身近なアクションがサンゴや自然環境を守る
サンゴ研究部の活動では、サンゴが増えるようすだけでなく、減っていくようすも観察できる。昨年の沖縄研修では県全体での大規模白化も目の当たりした。
「自分たちがせっかく殖やしたサンゴが白化していく、そういう悲しい現実を知ることも生徒にとっては学びの機会になる。
『じゃあ、自分たちにどんなことができるだろう』と考えていくことが大事だと思います。
『そもそもサンゴって何？』という方も多いと思うので、まずはサンゴがどういう生き物で、地球上からなくなってしまう恐れがあるという現状を知ってもらい、サンゴを守るためのアクションを起こす人が増えるといいなと思います。
『1人が100歩進むよりも、100人が1歩進む方が環境保全は前に進む』、これは環境問題に携わるなかで知った言葉ですが、とてもいい言葉ですよね。
ゴミを分別するとか、身近なことでいいんです。小さなことでも行動することで、海や自然環境を守ることにつながります」（市川先生）
―――市川先生は玉川大学工学部とも連携し、AIを活用したサンゴ研究の取り組みなども始動。
研究を深めるとともに、サンゴ保全の重要性や環境問題を伝えていきたい、とサンゴ研究部内からも声が出ているというから、今後の活動に注目だ。
◆玉川学園 サンゴ研究部
https://sites.google.com/view/tamagawasango/
