東急田園都市線、東京メトロ半蔵門線、東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)には、1970年代生まれの形式がいまも走っている。
豪快な加減速、厚手のシート、コルゲートの陰影 ―――東急電鉄 8500系。
東急初のローレル賞(鉄道友の会)を受賞したくるまは、登場から45年が経ったいまも、東急2020系や東武50050系、東京メトロ08系といった2000年代生まれの電車といっしょに都心を直通する。
この8500系は、車内の空調にも歴史を感じるアイテムが天井に備わる。
扇風機。車内に冷房が入るころにまわりだす。ボディには「東芝車輌用扇風機」の文字と「Toshiba」のロゴ。
この扇風機が、いまのラインデリアから吹き出す風と違い、想像以上に豪快な風を吹き下ろす。
実はこの東芝製扇風機、鉄道分野では蒸気機関車の時代から車両に投入されていた。東芝未来科学館のページには、こう記されている。
「1916(大正5)年には品質の優れた、一般庶民にも手が出る低価格の芝浦扇風機を製造し、人気の家電アイテムになっていった。当時は30cmと40cmの首振り形と固定型があり、単相誘導電動機の擬似三相式起動法によって大量生産を狙った」
「さらに1920(大正9)年には、東海道線の急行列車向けに直流扇風機を製造し、換気のために窓をあけるしかなかった長距離乗車の客から大いに好評を得た」
「アイロンと並んで最も早く国産化されたという電気扇風機。関東大震災で工場が全焼して生産が止まったこともあったが、景気の回復とともに需要も拡大し、卓上用、天井用、換気用、鉄道車両用など製作アイテムも増え、「扇風機は芝浦」と言われるようになった」
蒸気機関車が引く客車列車時代から、脈々と受け継がれてきた東芝製扇風機は、昭和生まれの8500系といっしょに、いまも都心の移動を支えている。