中谷財団 菅裕明「特殊ペプチド創薬の開拓とイノベーション」を神戸賞に 突出した独創性と他分野応用に優れたBME研究「異端は認められた瞬間に先端に変わる」

「サイエンス的な発想をもって、新しいチャレンジに取り組み、さらにあらゆる課題に応用できるように研究していくことを念頭において日々取り組んでいます。

この技術は、世界中の製薬企業で活用してもらっています。これはうれしいことです」(菅裕明 教授)

――― BME(Bio Medical Engineering)分野の発展を通じて、日本のイノベーションを促進させるべく、新研究・技術開発支援助成事業や表彰事業などを展開する 公益財団法人 中谷財団(東京都品川区)が、最新の BME 分野研究トピックスを公開した。

それが、中谷財団 神戸賞 を受賞した、東京大学大学院 理学系研究科 菅裕明 教授「特殊ペプチド創薬の開拓とイノベーション」。

中谷財団 神戸賞 については、後半で記すとし、まずは神戸賞を受賞した菅裕明 教授「特殊ペプチド創薬の開拓とイノベーション」の研究内容について。

特殊ペプチドで創薬プロセスを飛躍的効率化

菅裕明 教授は、非天然型のアミノ酸が連なる特殊なペプチドを、細胞抽出液で合成できる「人口酵素フレキシザイム」、「遺伝暗号リプログラミング技術」を開発し、さらにペプチド薬剤候補を高効率で探索できる「RaPID システム」を開発。

これらは独創性が極めて高く、特殊ペプチドを用いた創薬プロセスを飛躍的に効率化する優れたイノベーションといる。

従来、医薬品の主軸は分子量が小さい低分子化合物だったが、今世紀に入り分子量の大きい高分子の抗体(タンパク質)医薬品などが登場し、新たな薬剤の開発に期待が高まった。

特殊ペプチドは、菅教授がつくった造語。

遺伝暗号の人工的な改変で合成

菅教授は、抗原性の低い中分子である、特殊なペプチドを、遺伝暗号の人工的な改変で合成することを目的に、極めて独創的な人口酵素「フレキシザイム」と、「遺伝暗号リプログラミング技術」を開発。

これらの研究開発により、特殊な化学構造のペプチドを、複雑な化学合成のステップを最小限にし(もしくは、化学合成できないものも含めて)、鋳型 mRNA と細胞抽出液を利用して、合成できるようにした。

高結合力ペプチド分子を高成功率&短時間で探索

また、疾患原因タンパク質へのペプチド薬剤候補を高効率で探索できる「RaPID システム」を開発し、これにより1兆種類を超える特殊ペプチドライブラリーの中から結合力の高いペプチド分子を、高い成功率で、かつ2週間という短時間で探索できるようになった。

合成から薬剤探索までの一気通貫した開発技術は、2006年に菅教授が創業した「ペプチドリーム社」により、製薬企業を中心に共同研究、サブライセンスされ、各企業で技術が活用、応用されている。

中谷財団は、「独創性の高さはいうまでもなく、また、他の分野にも応用可能な優れたイノベーションといえる」と評価している。

抗体薬品から経口薬へ

6月24日には、東京ミッドタウン八重洲カンファレンスで『異端からの発想。特殊ペプチド創薬は常識を変える!』をテーマに、加藤昂英 科学コミュニケーターと菅教授がトーク。

特殊ペプチド創薬の今後の可能性について、こう教えてくれた。

「いま世界中の製薬メーカーが競って開発しているのが、注射などで体内に入れる抗体薬品に代わる、口から飲む経口薬。

この考えに特殊ペプチドが活かされいて、すでに2〜3種類が臨床試験に入っています。

低分子なんだけど、低分子のような毒性・副作用のないものが求められています」(菅教授)

がん治療 放射線治療にも

「そしてもうひとつは、ラジオアイソトープが特異的にがん細胞にぶつけられるような特殊ペプチド創薬が求められています。

放射線治療などで、体内に放射線物質がずっとあると困る。

がん細胞をやっつけた放射性物質は、すぐに体内から排出したいけど、時間がかかる。

だから、放射性物質の体内滞在が短くなるような、適する特殊ペプチド創薬の開発にも期待されている」(菅教授)

――― 菅教授は、第2回 神戸賞を受賞し、研究助成金としての副賞として賞金5000万円とトロフィーを手にした。

研究者から小中高校生まで、トータルに事業展開する国内有数のユニークな財団へ

中谷財団は、神戸に本拠を置く臨床検査機器・試薬メーカー シスメックス株式会社の創業者 故 中谷太郎により 1984年「中谷電子計測技術振興財団」として設立。

その意思を継いだ子息の 故 中谷正の遺贈を受け、2012年に大きな事業が行える財団へと生まれ変わり、同年には公益財団法人に移行し、「公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団」へ。

それ以来、医工計測技術分野の広範な発展を願い、先導的な技術開発への助成を中核として技術開発に顕著な業績をあげた研究者への表彰や、技術開発に関する交流への助成などの事業を行ってきた。

2014年以降は、若手人材育成のため、大学院生向け奨学金や大学生の短期留学サポート、さらにすそ野拡大のため、小中高校生を対象とした科学教育振興助成など、幅広い層への支援を実現している。

このように研究者から小中高校生まで、トータルに事業展開をする国内有数のユニークな財団へと進化。

2024年に設立 40周年を迎え、対象分野を BME 分野に拡げるとともに、新たな表彰事業「神戸賞」を創設。

また、同年 11月 1日に名称を「公益財団法人 中谷財団」と改称し、現在に至る。

中谷財団 第3回 神戸賞 候補者推薦 募集中

中谷財団は、第3回 神戸賞 候補者推薦 募集中↓↓↓
https://www.kobe-prize.jp/recruitment/
https://www.nakatani-foundation.jp/

『神戸賞』審査委員一覧

[審査委員長] 柳沢 正史 (筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長 教授)

[審査副委員長] 小川 誠司 (京都大学 大学院医学研究科 腫瘍生物学講座 教授)

[審査委員] 木下 聖子 (創価大学 糖鎖生命システム融合研究所 副所長 教授)
斎藤 通紀 (京都大学 高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点 教授)
佐藤 俊朗 (慶應義塾大学 医学部 医化学教室 教授)
染谷 隆夫 (東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授)
田畑 泰彦 (京都大学 大学院医学研究科 形成外科学 特任教授)
永次 史 (東北大学 多元物質科学研究所 有機・生命科学研究部門 教授)
濡木 理 (東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 教授)
林 朗子 (理化学研究所 脳神経科学研究センター 多階層精神疾患研究チーム チームリーダー)
本田 賢也 (慶應義塾大学 医学部 微生物学・免疫学教室 教授)
三浦 佳子 (九州大学 大学院工学研究院 化学工学部門 教授)
森 勇介 (大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻 教授)
[顧問] 西川 伸一 (NPO 法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン 代表理事)