日本臨床矯正歯科医会 ネットでまん延する医療広告違反を調査しガイドライン遵守を啓発、安心して治療を受けるための矯正歯科医院の選び方 6つのポイントを公開

「この手のネット広告は、医療広告違反です。医療事業者は医療広告ガイドラインの遵守徹底を。受診する人たちもこうした違反広告につられて医療トラブルに巻き込まれないように」

そう注意しているのは、公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会。

クリニックと患者の間でトラブル多発

「治療をキャンセルしようとしたら、キャンセル料を取られた」(20代女性)

「転勤により転医しようとしたら拒否された」(40代女性)

日本臨床矯正歯科医会が公式ホームページ上に開設している「矯正歯科何でも相談」に寄せられる相談も増加傾向で、マルチブラケット(左)やアライナー(右)などで、治療技術、転移や治療中止、治療計画、診療姿勢、治療費、治療リスクなどに関して、医療機関・クリニックと患者の間で、こうしたトラブルが多発しているという。

誇大ネット広告が“トラブルの入り口”に

すべての世代でネットで情報を得る時代。クリニック側もネット広告を多彩に展開し集客することが“マスト化”し、根拠が乏しく患者を誤導するような医療情報や誇大広告が増えている。

また患者は、こうした誇大広告につられて非現実的な治療結果を期待し、自分好みの治療方法を歯科医師に求めるという傾向も増えてきた。

こうした“すれ違い”が、すれ違いで終わらず、弁護士に頼るようなトラブルへとつながっていくのが、現状だ。

とくに、10~20代の患者たちと医療機関とのトラブルが急増している。

さらに厄介なのは、インフルエンサーたちが拡散する投稿で、歯科矯正を美容医療サービスのひとつととらえて安易に受信するという悪い流れが止まらない……。

日本矯正歯科学会が審査と始動へ

こうした問題に対し、日本矯正歯科医会は学会員のホームページを審査。

約7000会員の学会認定資格を有する約4000名に対し、勤務先医療機関ホームページの掲載内容を5年ごとに調査・指導してきた。

また、学会員の医療広告規制の内容理解と遵守が高まってきたが、学会員外には始動が行き届かない課題もあるという。

調査では、日本臨床矯正歯科医会会員(日本矯正歯科学会認定資格者)は広告違反はゼロ。無資格者は広告違反84%という結果に。

医療広告違反の3割が、「プロバイダー格付け・症例数の誇示」。その次に「認定などの資格での勧誘」「安いキャンペーンや割引など」と続く。

日本矯正歯科医会は、会員外の矯正歯科医療にたずさわる歯科医師・医療機関への医療広告ガイドライン遵守を啓発していくという。

―――では、受信しようとしている消費者たちにはどう認識改善を促していくか。日本臨床矯正歯科医会は、「安心して治療を受けていただくための6つの指針」(矯正歯科診療所が備えるべき6つのポイント)を公開している。

安心して治療を受けるための6つの指針(矯正歯科診療所が備えるべき6つのポイント)引用

(以下 日本臨床矯正歯科医会「安心して治療を受けていただくための6つの指針」(矯正歯科診療所が備えるべき6つのポイント)引用)

適切な矯正歯科治療を受けていただくために、2015年、本会では患者自身が信頼できる矯正歯科を見極めるための”受診時の目安”として、6つの指針を提言として掲げました。

◆重要:(1)頭部X線規格写真(セファログラム)検査をしている
セファログラムは診断のグローバル・スタンダードで、特に子どもの患者さんでは顎顔面の成長バランスや成長方向、量の予測をするために不可欠な検査です。

◆重要:(2)精密検査を実施し、それを分析・診断した上で治療をしている
矯正歯科治療を行うためには、臨床検査として1.口腔内検査 2.顎機能と咬合機能の検査 3.顎のプロポーション検査 4.筋機能の検査、また、診断資料の分析として1.模型分析 2.頭部X線規格写真の分析 などを実施した上で診断を行うことが不可欠です。

◆重要:(3)治療計画、治療費用について詳細に説明をしている
矯正歯科では、検査結果を詳細に分析した上で診断を行い,治療計画を立案します。
治療計画については、わかりやすい治療のゴールやそのプロセスを患者さんに示しながら、それぞれの患者さんに適した治療装置とその効果,治療期間、第二期治療の可能性(子どもの場合)、保定、後戻りの可能性や治療のメリット・デメリットおよび抜歯・非抜歯について説明を行います。
治療費用についても、治療費、調節料、支払い方法(一括・分割)、装置が壊れたときの対応、転医あるいは中止する場合の精算についても詳細説明を行い、患者さんの同意を得てから治療を行います。

重要:(4)長い期間を要する治療中の転医、その際の治療費精算まで説明をしている
本会には治療中に転居等で診療所を変わらざるを得なくなった患者さんに、転居先にできるだけ近い矯正歯科を紹介する「転医システム」があります。
【紹介先】当会所属の矯正歯科専門開業医 治療費の過不足も当会の取り決め目安に沿って精算

推奨:(5)常勤の矯正歯科医がいる
常勤の矯正歯科医がいることは、以下のようなメリットにつながります。
・治療において画像診断ができる撮影機器などの環境・設備が整っている
・矯正装置が取れてしまったなど器具に不具合があっても、すぐに対応できる
・同じ担当医による一貫治療が行える

推奨:(6)専門知識がある衛生士、スタッフがいる
矯正歯科への豊富な経験と知識があるスタッフがいることは、以下のようなメリットにつながります。
・矯正歯科医の指導監督のもとに、患者さんへのさまざまな対応が可能となる
・矯正装置への口腔衛生指導が行える
・治療中の食事指導が行える

本会は、より多くの皆様に矯正歯科治療についての正しい知識を身につけていただくとともに、歯科全体における矯正歯科医療の向上と自己研鑽に努め、質の高い治療と安心を提供していきます。

(以上 引用おわり)

―――日本臨床矯正歯科医会は、矯正歯科治療のあるべき姿について、こう伝えている。

「矯正歯科治療は、歯の位置やあごの骨を長い時間かけて少しずつ変化させ、悪い歯並びを治し、よい咬み合わせを実現させていきます。

それは顎や顔を構成する骨格が調和のとれている状態で、口腔機能の改善と向上をともなうことを前提としています。

その結果として、審美的な歯並びや口元、顔貌になることが良質な矯正歯科治療に求められるものです。

すなわち「よい咬み合わせ」「きれいな歯並び」「感じのよい口もと」「口の健康の増進」「治療後の安定性」をトータライズして獲得することであり、見た目のきれいさだけではなく機能がともない、さらには生涯にわたってきれいな歯並びと健康を維持できることをめざしています。

矯正歯科治療が美容を目的にしていると思われることは、会員の本意ではありません」

画像は公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会 佐藤國彦 副会長、公益社団法人 日本矯正歯科学会 理事 倫理裁定委員会 富永雪穂 委員長(公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会 会員)