
医工計測技術分野における技術開発や技術交流などの促進と人材の育成を目的に、幅広い助成事業を展開している公益財団法人 中谷財団(東京都品川区 家次恒 代表理事)。
中谷財団はこれまで、医工計測技術分野における技術開発の飛躍的な発展を願い、中谷賞(大賞・奨励賞)を設けて、優れた業績をあげている研究者、独創的な研究を展開している研究者を表彰してきた。
https://www.nakatani-foundation.jp/business/nakatani_award/
さらに、2024年設立40周年をむかえ、助成分野を BME 分野に拡げるとともに、新たな表彰事業「神戸賞」を創設。
そして2024年度 第17回目の中谷賞は、浜松医科大学 細胞分子解剖学講座 教授で、光医学総合研究所国際 マスイメージングセンター センター長、光量子医学推進機構 機構長 瀬藤光利 教授が大賞(賞金1000万円)を受賞。
その研究内容を、東京ミッドタウン八重洲カンファレンスで解説した。
質量顕微鏡法をさらに発展させ医工学へ応用

まず、第17回 中谷賞 を瀬藤光利 教授に決めた理由について、中谷財団はこう総評している。
「瀬藤氏は、「質量顕微鏡」と呼ばれる、質量分析技術と顕微鏡技術を融合した装置を考案・開発し、マスイメージング分野の第一人者として、質量顕微鏡法をさらに発展させ、医工学への応用展開を牽引しています。
「質量顕微鏡」は、顕微鏡下で試料を構成する物質を質量分析により同定し、二次元質量分析によって取得した物質ごとの画像を従来の顕微鏡像と重ね合わせることで、組織においてどのような分子がどのような分布で存在するのかを知ることができる画期的な装置です。
島津製作所から世界初として発売された後、欧米各社からも市販され、世界中で多くの分野で活用されています。
とりわけ医学の分野では、アルツハイマー病の異常脂質分布の観察、腹部大動脈瘤の膨隆蓄積物質の同定、大腸がんへの異常脂質の蓄積の検出、統合失調症死後脳の脂質分布異常の発見等、枚挙にいとまがありません。
また、薬学の分野では、薬物動態(薬物が体内でどのように動いているか)の可視化が可能であることから、創薬につながることが期待されています」(中谷財団)
「血球計測計の世界No1企業シスメックス社 創業者中谷さんは偉大」

瀬藤光利 教授は、今回の解説会で、こう伝えている。
「サルは光を目で見て世界を認識する。コウモリは超音波を耳で聞いて世界を認識しています。
医学研究にあたり、まずは世界認識の点検と進歩が必要と考え、ガンダムのニュータイプに影響されていた子ども時代、私が最初に参加した学会は宇宙医学会でした。
実験は加救教授のご指導のもと、宇宙酔いの平衡生理、ヒマラヤ遠征時の血中酸素分圧、そして両耳聴での空間認識でした。
人間は、目や耳に加えて顕微顔や望遠鏡といった計測器を用いることで世界認識を新たにしています。
新しい計測装置の開発が、人類をニュータイプに進化させるのだと理解し、チームをつくって装置を開発し、多くのチームと協力して応用しようと考えています」(瀬藤光利 教授)
また瀬藤 教授は、次の5項目についても言及・アピールした。
1)計測は重要。血球計測計の世界No1企業シスメックス社 創業者中谷さんは偉大である。
2)上司の矢崎内科、加我耳鼻科頭頸部外科、廣川先生、永山先生、寺尾学長、中村学長、今野学長、島津製作所はじめ各メーカー、瀬藤研ラボメンバー、臨床中心とした多くの共同研究者に感謝。
3)質量分析とイメージング、薬物動態等の高橋社長率いる受託会社プレッパーズ社共用プラットフォーム、利用受付中。
4)タンパク質分解経路を分子標的とした神経変性疾患創薬特任准教授、助教、技術補佐員、秘書、大学院生、学部学生を募集中。
5)NPO 光量子医学推進機構 随時応援受付中。
高専生・高校生の視点で最新技術を共有

また、国立 沼津工業高等専門学校 化学専攻、静岡県立 焼津中央高校 科学部 の生徒・学生たちと、「仲間を集めて冒険の旅に出よう!」~高専生・高校生とともに研究の取り組み方によって広がる未来について語る~と題したトークも展開。次の5テーマについて、語り合った。
◆化学という広い分野のなかで、分析化学をご専門に適んだのはなぜですか。また、分析化学のなかでも質量顯微鏡という研究テーマはどのように決めたのですか。
「質量顕微鏡という名前はあとから出てきて、分野がないところから始まった。新しい分野をつくっていった」(瀬藤 教授)
◆質量顕微鏡を使って調べる際に、量や分布の検知のしやすさには個人差はありますか? またヒト以外の生物にも応用することは可能ですか?
「個人差があるけど、応用は可能。そこに分子的な中間的な状態があるから、とてもバラエティに富んでいる。ソフトウェアなども開発して個人差などを解決していきたい。がん細胞の良性・悪性を質量顕微鏡で判断するというのもホットな話題。この判断ができるようになるためにも、多くのチームで根気よい研究が求められている」(瀬藤 教授)
◆いま部活で海に関することを研究していて、そのひとつに海水に含まれている生物の鱗や糞由来の環境 DNA というものを採取し、PCRやシーケンスをして、採取したDNAの魚種の同定をしています。先生が開発された質量顕微鏡でも DNA の同定ができますか?
「質量顕微鏡は生きている人をうまく測れないという難しさがある。これからは違う手法で図ろうとしている。顕微鏡で見る意味があるかといった、まさに最先端の話題。がんの研究でも取り組んでいるので、ぜひ興味があればこの分野に飛び込んでほしい」(瀬藤 教授)
◆質量顕微鏡を開発するのに一番苦労したことは何ですか。 また、その苦労はどのように解決しましたか。
「この研究はひとりでやってたら1000年かかるかもしれない。100人で10年、500人で2年でできる。だから仲間を集めるのが大事。みんなで研究する場をつくる。シスメックスの中谷さんは起業して自分でつくったかもしれない。これからは自分でスタートアップをつくって始めるかもしれない。だからこそ、こうした場をいただいた人たちには感謝しかない」(瀬藤 教授)
◆現在、世界単位でエネルギー問題があると思いますが、質量顕微鏡の成分分析を用いることで、新たなバイオマス燃料を発掘できると思ったのですが、それは可能ですか?
「すごい。そういう発想はおもしろい着眼点だと思います。ぜひ取り組んでください。応援しています。おもしろいし、みんなの課題が解決できるとなると、みんなが応援してくれるから」(瀬藤 教授)
―――1984年の創設以来、医工計測技術を中心に多くの研究者を支援してきた中谷財団の 松森信宏 事務局長は「今後もこうした生徒・学生との交流の場を設けていきたい」と伝えていた。
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