情報通信研究機構(NICT)、JR東日本、鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は、2019年12月4日から2020年2月6日にかけ、JR烏山線 宝積寺~下野花岡で、公衆網から自営網へスムーズに無線ネットワークを切替える技術の実証実験を実施。
全国通信事業者が提供する公衆網に接続された列車や自動車上の端末などが、自営網事業者が設置する自営スポットセルの圏内に移動したさい、公衆網から自営網へのスムーズな無線ネットワークの切替えを可能とする基盤技術の実証実験に成功した。
今回のJR烏山線での実験は、烏山線沿線にNICTが開発した親局となるベースバンド装置(BBU)1台と、無線信号の送受信を処理する無線機(RRH)3台を設置し、総長3kmの範囲がサービスエリアとなる自営のリニアスポットセルを仮設。
これら3台のRRHと、烏山線 EV-E301系(ACCUM 蓄電池駆動電車)に設置した端末との間で通信し、公衆網と自営網の接続切替えを実証した。
今回は、32GHz帯の電波を使い、RRHに取り付けた指向性のあるホーンアンテナでリニアスポットセルを形成。リニアスポットセル突入時の自営網への接続切替えと、接続先の3台のRRHをシームレスに切り替える接続を実験。
その結果、従来は4分以上かかっていた公衆網から自営網への接続切替時間が、平均5秒以下、最大でも10秒程度に短縮できることを実証した。
また、地上に設置した複数のカメラから車上端末への複数動画同時伝送する実験も実施。サービスエリアには下野花岡駅も含まれ、走行速度60km/hでの突入時における接続切替実験のみでなく、駅での停車までの速度変化による接続安定性などを評価した。
今回、公衆網利用時には約800ミリ秒だった往復遅延時間(ラウンドトリップタイム)が、自営網に接続を切り替えた後は約100ミリ秒と、およそ8分の1に短縮され、動画の品質が改善できることを確認した。
この基盤技術は、NICTが開発。自営網事業者と公衆網事業者間で加入者情報を共有する必要がなく、公衆網などの一般的なネットワーク回線を経由して自営網に事前に一度アクセスしておくことで、接続切替えに要する時間を大幅に短縮できる。
今後普及が期待されるローカル5G(5Gによる超高速、超低遅延、超多数端末同時接続などの技術を、企業や自治体などの自営網事業者が独自に構築するネットワーク)のように建物や土地の範囲限定で自営サービスを提供するための自営スポットセルに対し、非常に短時間での接続が実現でき、サービスを安定して提供することが可能に。
――― 農業、交通インフラ、防災システムなどの地域課題を解決する技術としても非常に期待されているローカル5G。
今回の成果をふまえ、NICT・JR東日本・鉄道総研は、さらに本技術の高度化を目指した研究開発を推進し、農業のようにスポットセルを密に配置することが難しい環境など、より適用範囲を広げ、さまざまな分野の地域課題の解決をめざす構え。