医工計測技術分野における技術開発や技術交流などの促進と人材の育成を目的に、幅広い助成事業を展開している公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団(東京都品川区/家次恒代表理事)。
中谷財団はこれまで、医工計測技術分野における技術開発の飛躍的な発展を願い、中谷賞(大賞・奨励賞)を設けて、優れた業績をあげている研究者、独創的な研究を展開している研究者を表彰してきた。
そして2023年度 第16回目の中谷賞は、理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞極性統御研究チーム 岡田康志 チームリーダーが大賞(賞金1000万円)を、九州大学大学院医学研究院 今井猛 教授と理化学研究所 渡邉力也 主任研究員が奨励賞(賞金300万円)を受賞。
高校生視点で研究内容を学ぶ
この第16回中谷賞大賞を受賞した、理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞極性統御研究チーム 岡田康志チームリーダーの研究内容を、高校生の視点で解説するイベントが、東京ミッドタウン八重洲カンファレンスで開催された。
題して、「岡田康志先生vs科学の好きな高校生「一分子でわかるからだの不思議」~理系人材の環境とBME分野研究で広がる未来~」。
東京ミッドタウン八重洲カンファレンスに、岡田康志TLといっしょに登壇したのは、浅野高校(神奈川県横浜市)、小野高校(兵庫県小野市)、都立科学技術高校(東京都江東区)の「科学大好き」高校生。
理系人材の育成環境に関してや、BME分野研究によって広がる未来など、岡田先生と高校生のそれぞれの視点から議論した。
研究題目「一分子・超解像蛍光顕微鏡法の開発と細胞生物学研究への応用」とは
岡田TL率いる「一分子・超解像蛍光顕微鏡法の開発と細胞生物学研究への応用」は、独自の手法で世界最高速の超解像蛍光顕微鏡を実現し、これまで見ることができなかったウイルスや細胞内小器官など、微細構造の動態を生細胞中で観察することを可能にした。
この手法は、国内外主要メーカーから販売され、世界中で広く使用されている。
さらに、新規超耐光性蛍光色素や蛍光タンパク質の開発など、超解像蛍光顕微鏡の医学生物学応用を進め、細胞状態の一細胞解析への応用という新分野も開拓している。
「人間の根源的な欲求、好奇心で動く研究であるべき」
岡田TLと高校生が語り合う「岡田康志先生vs科学の好きな高校生「一分子でわかるからだの不思議」~理系人材の環境とBME分野研究で広がる未来~」では、岡田TLが高校生たちに伝えたいメッセージが印象的だった。
「研究は、好奇心が最も発動する行動。人間は、食欲など以上に、好奇心が強い生物で、人間のもっている根源的な欲求だと想う。
人間の根源的な欲求、好奇心で動く研究であるべき。ピュアな好奇心。これを研究すれば中谷賞やノーベル賞をとれるという思いじゃなくて、『気になるからやってみる』から始まるのが、研究」(岡田TL)
「自分のなかから出てくるクエスチョンに、素直に従って動けばいい」
「本人が心の底から『知りたい』と思えば、失敗があっても諦めない。自分のなかから出てくるクエスチョンに、素直に従って動けばいい。
理系や文系といった枠も『気にしなくていい』。いまはすべてがクロスオーバーの時代。医学と工学も同じ。
とりあえずポジティブな選択肢を。得意、好き、入りやすいといったポジティブセレクションで、なにかを切り捨てないで取り組めばいいと思う。
AIには、好奇心がない。人間の根源的な好奇心は変えられない。その好奇心に役立つ、AIやビッグデータをうまく人間が使って、おもしろいことができると思う。これからもっと研究スタイルも変わると思う」(岡田TL)
―――知的好奇心を満たす楽しさをそのままに。岡田TLの言葉ひとつひとつを、高校生たちは熱心に聞き入っていた。
1984年の創設以来、医工計測技術を中心に多くの研究者を支援してきた中谷財団は、財団創立40周年を記念して「神戸賞」を創設。
その第1回神戸賞受賞者が、4月9日に発表され、6月1日に授賞式を開催するというから、こちらも注目していきたい。